一般化三角関数の\(p = 5\)で、通常の三角関数における算術幾何平均(AGM)のような計算公式を作れるだろうか。その探索から、ある規格化のノームを二乗する変換は、代数的な数を係数とする代数関数では実現できない、という限定された結論を得られる。
ここでは、既知の超幾何関数の公式とゲルフォント・シュナイダーの定理を組み合わせて、その主張を証明する。以下の議論の歴史的新規性は確認していない。また、この結論は、p=5の計算公式やAGM型の算法をすべて排除するものではない。
一般化三角関数とノームを定義する
実数\(p > 1\)に対し、一般化された逆正弦関数を次の積分で定義する。この逆関数が一般化正弦関数\({\sin}_{p}\)で、p=2では通常の正弦関数になる。
半周期に当たる定数\({\pi}_{p}\)は次のとおり。p=5でも、この定数そのものには通常の円周率を使った表示がある。
この一般化三角関数から定義される完全p楕円積分には、超幾何関数\({}_{2}F_{1}\)による表示がある。以下で使う関数と、その積分との関係をまとめると次になる。定義と表示については、Takeuchiの論文を参照。
次に、補助変数であるノーム(nome)を次の式で定義する。以後、この規格化を固定する。対数と実数乗は、正の実数上の通常の値を用いる。
p=2では通常の楕円積分のノームになる。古典的なLanden変換は、このノームを二乗する。そこでp=5でも、\({q}_{5} ( T ( z ) ) = {{q}_{5} ( z )}^{2}\)となる代数的な変換を探す、という方針を考える。
証明する命題の条件
命題。整数\(N \ge 2\)を固定する。十分小さい正の\(z\)で定義され、次の三つの条件をすべて満たす関数\(T\)は存在しない。
- \(0 < T ( z ) < 1\)であり、\(z \to {0}^{+}\)のとき\(T ( z ) \to 0\)。
- \(T\)は代数的な数を係数とする代数関数である。つまり、係数がすべて代数的数である非零の二変数多項式\(P\)によって、\(P ( z , T ( z ) ) = 0\)と書ける。
- 固定したノームについて、\({q}_{5} ( T ( z ) ) = {{q}_{5} ( z )}^{N}\)が成り立つ。
「代数的な数」とは、有理数係数の非零多項式の根になる数のこと。ここでは変換の式に現れる数の係数も代数的である、と要求している。任意の複素数を係数として認める場合には、以下の証明は適用できない。
原点での振る舞いから先頭係数を決める
ディガンマ関数\(\psi = \frac{{\Gamma}^{\prime}}{\Gamma}\)を使い、二つの定数を置く。
超幾何関数の接続公式(DLMF 15.8.10でm=0)から、\(z \to {0}^{+}\)で次の展開を得る。
一方、原点での級数から\({F}_{p} ( z ) = 1 + O ( z )\)。これらをノームの定義へ代入すると、指数の中は\(\log ( z ) - {R}_{p} + o ( 1 )\)となる。したがって、
ここで\(\sim\)は、両辺の比が1へ近づくことを意味する。この関係を変換の前後に適用すると、
よって変換の先頭の振る舞いは、必ず次の形になる。
p=5の定数を計算する
黄金比を\(\varphi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2}\)と置く。まず、p=5の定数は次の組合せで決まる。
ガウスのディガンマ関数の公式(DLMF 5.4.19)を分母5の場合に適用する。二つのディガンマ関数を足すと余接の項が打ち消し合い、次を得る。
ここで、正五角形に現れる次の三角比を使う。
対数の式を積と比にまとめ直すと、計算を次のように進められる。
したがって、ノームの先頭係数に現れた定数は次の値になる。
ゲルフォント・シュナイダーの定理によれば、0でも1でもない代数的数を、代数的な無理数の乗にした値は超越数になる。黄金比は1より大きい代数的数であり、√5は代数的な無理数なので、この定理を適用できる。
特に\({C}_{5}\)は超越数である。さらに、必要な先頭係数そのものも、
と書ける。整数\(N \ge 2\)に対し、指数\(( 1 - N ) \sqrt{5}\)は代数的な無理数である。右辺の黄金比のべきは超越数で、それに掛かる因子は0でない代数的数だから、積も超越数になる。
代数関数の先頭係数と矛盾する
残るのは、「代数的な数を係数とする代数関数の先頭係数は代数的数になる」という点だ。ここでは一般的な級数展開の定理を使わず、多項式へ直接代入して示せる。
先ほど得た形を\(T ( z ) \sim c {z}^{N}\)と書き、定義に用いた非零多項式を次のように表す。和は有限で、\({a}_{i j}\)はすべて代数的数とする。
係数が0でない項のうち、次の重みが最小になるものを集める。
恒等式\(P ( z , T ( z ) ) = 0\)を\({z}^{m}\)で割り、\(z \to {0}^{+}\)の極限を取る。最小の重みより大きい項は0へ近づくので、
を得る。これは\(c\)についての非零の多項式である。同じ\(j\)に対して\(i + N j = m\)となる\(i\)は一つしかなく、同じ次数の係数同士が打ち消し合うことはないためだ。
したがって、\(c\)は代数的数を係数とする非零多項式の根であり、代数的数でなければならない。ところが今回の\(c = {{C}_{5}}^{1 - N}\)は超越数だった。矛盾する。
これで命題が証明された。特に\(N = 2\)の場合、ここで固定したノームを二乗する代数的係数の変換は存在しない。
この証明が言えることと、届かない範囲
同じ規格化で定数を計算すると、次の違いが見える。この表は定数の比較であり、各pの計算公式がどこまで研究済みかを示す表ではない。
| p | 定数 Cp | 数の性質 |
|---|---|---|
| 2 | 16 | 代数的数 |
| 3 | 27 | 代数的数 |
| 4 | 64 | 代数的数 |
| 5 | \(25 \sqrt{5} {\varphi}^{\sqrt{5}}\) | 超越数 |
| 6 | 432 | 代数的数 |
p=2、3、4、6では、この先頭係数に関する矛盾は生じない。ただし、障害がないことだけで変換の存在が証明されるわけではない。また、p=6の例からも分かるように、この結果を「pが5以上ならすべて不可能」と読むことはできない。
規格化の条件も重要だ。たとえば、次のようにノームを定数倍すると、原点での先頭係数を1にできる。
この新しいノームを二乗する条件は、元のノームでは超越数を掛けた変換則に変わる。その場合、上の先頭係数による矛盾は消える。これは別の変換が実際に存在するという証明ではなく、今回の議論だけでは排除できない、という意味である。
同様に、変換の係数に超越数を許す方法、ノームの整数乗とは違う変換則を用いる方法、変数を増やした反復法も、この命題の対象には含まれない。得られたのは、p=5で古典的な二乗化をそのまま模倣しようとした際の、明示的な障害である。
参考資料
- Shingo Takeuchi, The complete p-elliptic integrals and a computation formula of πp for p=4。一般化三角関数、完全p楕円積分、およびその超幾何関数表示の出典。
- NIST Digital Library of Mathematical Functions, 式15.8.10。原点近くのノームの振る舞いに用いた接続公式。
- NIST Digital Library of Mathematical Functions, 式5.4.19。有理数でのディガンマ関数の値。
- Yum-Tong Siu, Theorem of Gelfond–Schneider on Transcendental Numbers。超越性に用いた定理の講義資料。