2、3、5、7、11、13、17、19……。これは「素数」という数の並びだ。次に現れるのは23。その次は29。間隔は、広がったり狭まったりしている。
この並びを深く調べていくと、意外なところにたどり着く。ある計算の答えをゼロにする特別な数が、数の地図の上で、すべて一本の直線に並ぶのではないか。これが「リーマン予想」の中心にある問いだ。
1859年に数学者ベルンハルト・リーマンが提案し、2026年10月31日の確認時点でも未解決だ。クレイ数学研究所も、未解決のミレニアム懸賞問題の一つとして掲載している。クレイ数学研究所の解説
1.小学生から:素数は、かけ算の材料
素数は、2以上の整数で、1と自分自身でしか割り切れない数のこと。7は素数だが、12は2でも3でも割り切れるので素数ではない。1は、この定義に入らない。
12なら \(2\times2\times3\)、30なら \(2\times3\times5\)。2以上の整数は、素数をかけ合わせて作れる。しかも、かける順序を無視すれば、材料の組み合わせは一通りに決まる。だから素数は「整数を作る材料」にたとえられる。NIST DLMF:整数の素因数分解
まず、1から100までの数から素数を探してみよう。2自身を残して2の倍数を消し、次に3自身を残して3の倍数を消す。5、7でも同じことをする。この方法をエラトステネスのふるいという。
実験1:倍数を消すと、何が残る?
消した数は取り消し線、確定した素数は太字と枠で示す。
100以下の素数は25個。最後に残るのは、2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41、43、47、53、59、61、67、71、73、79、83、89、97。
もう一歩:100までなら、なぜ7まで調べればよい?
素数でない数を二つの整数の積にすると、少なくとも片方はその数の平方根以下になる。両方が平方根より大きければ、かけた答えが元の数を超えてしまうからだ。
100の平方根は10。だから、100以下の素数でない数には、必ず10以下の素数の約数がある。2、3、5、7の倍数を消し終えたら、残りは素数だ。
2.一つずつ当てる代わりに、「個数」を考える
素数は無限にある。でも、一定の間隔では並ばない。11と13は2しか離れていないのに、23と29は6離れている。
そこで「次はどこ?」から少し見方を変えて、「100までには何個? 1,000までには何個?」と考える。この個数を \(\pi(x)\) と書く。円周率と同じ記号だが、ここでは別の意味だ。
数を大きくしていくと、素数は全体としてまばらになる。その大まかな個数は \(x/\ln x\) という式で見積もれる。\(\ln\) は「自然対数」という計算で、ここでは個数の目安を作る道具だと思ってほしい。実際の個数とこの目安の比が、数を限りなく大きくすると1に近づくことは、すでに証明されている。「素数定理」という。NIST DLMF:素数定理
実験2:素数の個数と、なめらかな目安
1,000以下の素数は168個。目安は約144.76個で、実際のほうが約23.24個多い。
| ここまで数える | 実際の個数 | 目安(約) |
|---|---|---|
| 100 | 25 | 21.71 |
| 1,000 | 168 | 144.76 |
| 10,000 | 1,229 | 1,085.74 |
青い線は素数に出会うたびに1段上がる階段。範囲を変えると、縦軸・横軸の目盛りも変わる。表示した有限の範囲だけで、無限の先までの性質は判断できない。
ここでリーマン予想につながる次の問いが出てくる。「大まかな目安からのずれを、どこまで詳しく抑えられるだろう?」リーマン予想は、このずれと深く関わっている。ただし、上のグラフにある \(x/\ln x\) との差を、そのままリーマン予想の誤差の限界として読んではいけない。厳密な議論では、より精密な目安や、数え方を使う。
3.中学生から:「ゼータ関数」という計算機
ここで登場するのが、\(\zeta\)(ゼータ)という記号で表す関数。関数とは、数を入れると、決まったルールで別の数を返す仕組みだ。
ゼータ関数の入口は、次のような足し算。2を入れると、1、2、3、4……をそれぞれ2乗し、その逆数を全部足す。
途中までなら、\(1+1/4+1/9+1/16=1.4236\ldots\)。先もずっと足すと、約1.6449に近づく。足す回数は無限でも、答えは限りなく大きくなるとは限らない。
「でも、1、2、3、4って、素数だけの式じゃないよね?」。そこが面白い。先ほどの「整数は素数のかけ算で作れる」という性質を使うと、この足し算は、素数だけを使うかけ算に書き換えられる。ゼータ関数には、素数の情報が入っているのだ。NIST DLMF:オイラー積
高校生向けのもう一歩:素数だけの式に書き換える
実数 \(s>1\) では、次の等式が成り立つ。右辺は2、3、5、7……というすべての素数についての積だ。複素数の場合は、実部が1より大きい範囲で成り立つ。
例えば、2の因子を展開すると \(1+2^{-s}+2^{-2s}+\cdots\)、3の因子なら \(1+3^{-s}+3^{-2s}+\cdots\)。これらを全部かけると、分母が \(2^a3^b5^c\cdots\) の項が現れる。素因数分解が一通りに決まるので、すべての正の整数がちょうど一度ずつ現れる。
4.数を「横と縦の地図」に置いてみる
ふだんの数は、数直線の上に並べられる。ここで数の世界を広げて、横の位置と縦の位置の二つで、一つの数を表すことを考えよう。この地図に置ける数が「複素数」だ。
例えば \(3+2i\) は、横に3、縦に2の位置。横の3を「実部」、縦の2を「虚部」という。\(i\) は \(i^2=-1\) になる特別な数だ。名前に「虚」と付くけれど、位置と計算のルールをきちんと持つ数である。
中学生なら、まずは「数直線を、座標の地図に広げた」と受け取れば大丈夫。ゼータ関数には、この地図上の数を入れることもできる。
5.リーマン予想:特別なゼロは、全部この線の上?
ゼータ関数に入れたとき、答えがちょうど0になる数を「零点(れいてん)」と呼ぶ。例えば、\(f(x)=x-3\) という関数なら、3を入れると0になるので、3が零点だ。
ゼータ関数には \(-2,-4,-6,\ldots\) という零点もある。これらは「自明な零点」と呼ばれ、リーマン予想の対象から外す。「自明」は数学の用語で、初めて読む人にとって簡単、という意味ではない。
それ以外の「非自明な零点」は、横の位置が0と1の間にあることまで分かっている。リーマン予想は、さらにこう主張する。NIST DLMF:零点の分布
ゼータ関数の非自明な零点は、すべて実部が1/2である。
地図でいえば、横の位置が0.5の、まっすぐな縦線に全部並ぶということ。「素数そのものが直線に並ぶ」という主張ではない。
実験3:見つかっている零点の位置を確かめよう
最初の零点の一つは、横が0.5、縦が約14.134725。縦が約−14.134725の位置にも零点がある。
図に使った座標を見る
| 順番 | 実部 | 虚部(約) |
|---|---|---|
| 1 | 0.5 | 14.134725 |
| 2 | 0.5 | 21.022040 |
| 3 | 0.5 | 25.010858 |
| 4 | 0.5 | 30.424876 |
| 5 | 0.5 | 32.935062 |
下側の5個は、虚部の符号を逆にした位置にある。数値の出典:FLINTのゼータ関数・零点計算例。図は既知の座標を描くもので、このページで新しい零点を探索しているわけではない。
図の点は全部同じ線にある。でも、予想が尋ねているのは「この10個が並ぶか」ではなく、「無限にある非自明な零点の全部が並ぶか」だ。線上のすべての場所が零点なのでもない。例えば実部が0.5でも、縦が0の場所は零点ではない。
高校生向けのもう一歩:予想を一行の式で書く
複素数を \(s=a+bi\) と書く。自明な零点を除いたとき、主張は次の形になる。
\(\operatorname{Re}(s)\) は実部、つまり \(a\) のこと。非自明な零点が存在する帯は「臨界帯」、その中央の直線は「臨界線」と呼ばれる。
零点の配置が臨界線に関して対称であることは分かっている。ただ、対称な図形の点が全部中心線上にあるとは限らない。左右に一つずつ外れた点があっても、対称性は保てる。「対称だから証明できた」とはいかない。
6.なぜ、零点の直線が素数の話になるの?
ゼータ関数には、素数の情報が入っていた。そのつながりをさらに調べると、素数を数える式に、ゼータ関数の零点が現れる。
たとえるなら、素数の個数のグラフは「全体の流れ」と「そこからの揺れ」が合わさったもの。零点は、その揺れ方を決める情報に対応する。音をいくつもの波に分けて調べるのと、少し似た見方だ。ただし、零点と素数が一つずつ対応しているわけではない。
リーマン予想が正しければ、素数の分布のずれに、現在無条件では証明できていない強い制限が付く。この関係は数学の式で示されている。単に見た目が似ているから結び付けているのではない。NIST DLMF:素数分布・零点・リーマン予想の関係
高校生向けのもう一歩:「ずれ」の式をのぞく
素数だけを1個ずつ数える代わりに、素数の累乗にも重みを付けた \(\psi(x)\) という関数を使う。例えば、2、4、8、16……を通るたびに \(\ln2\)、3、9、27……を通るたびに \(\ln3\) を足す。
この数え方の大まかな目安は \(x\)。リーマン予想は、どんな正の数 \(\varepsilon\) についても、次が成り立つことと同値だ。
\(O\) は「十分大きな \(x\) では、ずれの絶対値を、その大きさの定数倍で抑えられる」という記号。定数は \(\varepsilon\) によって変わってよい。\(\varepsilon\) を小さく選べるので、ずれを平方根に近い増え方で抑える、という意味になる。NIST DLMF:同値な誤差評価
ここで使うのは \(\psi(x)-x\)。実験2の \(\pi(x)-x/\ln x\) とは違う。式の「1/2」と零点の横位置の「1/2」は、零点から素数分布を表す式を通じてつながっている。
7.たくさん確かめても、なぜ証明にならない?
コンピューターで非常に多くの零点が調べられ、予想に合うことが確かめられている。例えば数論のデータベースLMFDBには、実部が1/2の零点が1,000億個以上収録されている。LMFDB:ゼータ関数の零点データ
それでも、調べたのは有限個だ。1兆個調べても、その次や、もっとずっと先に例外がないとは言い切れない。
身近な例で考えるなら、「\(n^2+n+41\) は、0以上のどんな整数 \(n\) を入れても素数になるだろうか」。\(n=0,1,2\) では41、43、47になり、実は0から39までは全部素数になる。ところが40を入れると、こうなる。
40回うまくいっても、次で崩れる例だ。「今まで例外が見つからなかった」と「例外が絶対に存在しない」は違う。リーマン予想を証明するには、無限の先まで一度に届く理由が必要になる。逆に、臨界線から外れた非自明な零点が一つでも厳密に見つかれば、予想は反証される。
8.読み終えたら、三つだけ確かめてみよう
Q1.1は素数?
素数ではない。素数の定義は「2以上」で始まる。
Q2.リーマン予想では、何が一直線に並ぶ?
ゼータ関数の「非自明な零点」。素数そのものではない。すべての非自明な零点の実部が1/2になる、という主張だ。
Q3.零点を1兆個確かめたら、予想は証明できる?
それだけでは証明できない。予想は無限にあるすべての非自明な零点についての主張だからだ。
入り口は、小学校で習う割り算だった。そこから素数の個数を調べ、無限の足し算を作り、数を平面に広げると、「全部が一本の線にあるのか」という問いに変わった。簡単に言える問いが、簡単に解けるとは限らない。リーマン予想は、そのことがよく見える数学の問題だ。
出典と、さらに読みたい人へ
未解決の状態は2026年10月31日に確認した。図と実験は説明用に作成し、零点の小数表示は近似値を使っている。
- Clay Mathematics Institute:Riemann Hypothesis — 問題の概要、1859年の提案、未解決の状態。
- NIST DLMF §27.2 — 素因数分解、素数計数関数、素数定理。
- NIST DLMF §25.2 — ゼータ関数の定義、解析接続、オイラー積。
- NIST DLMF §25.10 — 自明な零点、臨界帯、臨界線、予想の正確な主張。
- NIST DLMF §25.16 — 素数の分布と零点の関係、予想と同値な誤差評価。
- FLINT:The Riemann zeta function, its zeros and L-functions — 零点の数値計算例。
- LMFDB:Zeros of ζ(s) — 既知の零点のデータベース。